広島高等裁判所岡山支部 昭和28年(ネ)4号・昭28年(ネ)2号 判決
原告 山村儀次郎
被告 小川広道
一、主 文
原判決を左のとおり変更する。
原告が別紙目録<省略>記載の物件に対し所有権を有することを確認する。
被告が別紙目録記載の物件に対し質権を有しないことを確認する。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は原判決中原告敗訴の部分を取り消す。被告は別紙目録記載の物件(但し同目録に除外したものも含む)及び油槽一個につき質権を有しないことを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする。被告の控訴を棄却する、との判決を求め、被告訴訟代理人は原判決中被告敗訴の部分を取り消す。原告の請求はこれを棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする。原告の控訴を棄却するとの判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は
原告訴訟代理人において
一、原審において原告は別紙目録記載の物件(同目録に除外したもの及び油槽一個を含む)を訴外株式会社大和農産工業所より買い受けたと述べたが、右は誤りであり売主は訴外日東農産工業株式会社であるから訂正する。右会社は昭和二四年一一月二五日設立せられた大和農産工業株式会社の商号を変更したものであり、その日は昭和二五年四月一五日である。
二、別紙目録記載の物件中油圧ポンプ一台は甲第一号証記載の新宮型高圧ポンプ一台に、搾油本体二本は同上新宮型搾油機二台に円筒三箇は同上新宮型圧搾筒三個に、仮締及び粕抜機各一台は同上新宮型仮締機一台に、圧編ロール一台は同上新宮型圧編機一台にそれぞれ該当する。
三、被告主張の左記二の事実及び四の事実中その主張の部分品が現在において存在しないことはこれを認めるが、その余はこれを否認する。その余の本件物件は大部分岡山県小田郡矢掛町津尾油店に保管されてある。
と述べ
被告訴訟代理人において
一、原告主張の右一、二の事実は全部これを認める。
二、別紙目録記載の物件(ただし同目録中除外したもの等も含む)が押収されたのは昭和二五年三月一四日であり、訴外大和農産工業株式会社に仮還付されたのは同月一七、八日頃である。従つて被告が該物件に対し質権の設定を受けた同年二月二六日にはまだ押収処分はなかつたのである。
三、原告主張の売買契約締結当時本件物件は右訴外会社に仮還付中のものであつたところ、質権者は押収及び仮還付により質物の占有を喪わないから同会社はこれについて占有権を有せず、単に代理占有をしていたのに過ぎない。従つて仮に該契約が成立したとしても原告は有効な引渡を受け得ないから所有権を以て被告に対抗できない。
四、本件物件は現在被告において訴外仁科隆司方の倉庫に保管中であるが、別紙目録において除外した部分品及び油槽一個は右会社が仮還付を受けた当時は存在していたのに、被告に還付せられたときはなくなつており現在も存しない。
と述べたほかいずれも原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
成立に争のない甲第一号証及び原審における原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告は自己が取締役社長となつた訴外日東農産工業株式会社に対し運転資金として数回にわたり期間の定めなく金三〇万円の立替をしていたところ、昭和二五年五月六日監査役の承認を得た上同会社より会社にあつた別紙目録記載の物件(ただし同目録において除外した分及び油槽機一個が当時はあつたが、現在なくなつていることは当事者間に争がない)を他の物件とともに代金一〇万円にて買い受け、該代金債務と会社の立替金返還債務とを対当額において相殺し、即時現実の引渡を受け改めてこれを会社に賃貸し、営業用に使用させていたことを認め得べく、右認定を左右するに足る証拠はない。
しかるに被告は右売買契約のなされた以前において本件物件(右除外した分及び油槽機一個を含む)に対し質権を取得していたところ、原告は該物件が押収せられ仮還付中に買い受けたものであるからその所有権の取得を被告に対抗することはできないと主張するので先ず被告が右物件について質権を有するかどうかについて検討する。
成立に争のない甲第二号証、原審並に当審証人西久継の証言、原審における被告本人尋問の結果に原審証人西久継の証言により真正に成立したものと認める乙第三、四号証、右被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める同第一、二号証を綜合すれば、訴外江木俊雅は訴外佐藤秀夫と共同して両備農産工業所なる商号により製糖業等を経営していた当時被告に対し右訴外人と共同して昭和二四年八月一二日支払期日を同年九月一五日と定めて振り出した金額一〇万円の約束手形金債務を負担していたが、江木は個人企業を会社組織に改め、同年一一月二五日訴外大和農産工業株式会社を設立して取締役社長となり、同会社において個人企業当時の一切の債権債務を承継したほか同会社は同年一二月二五日と昭和二五年一月九日の二回にわたり被告の委託により受け取つた甘蔗原木に加工し被告に引渡すべき砂糖を他に売却し、ために原告の蒙つた一一七、七〇〇円の時価相当額の損害賠償債務を有しこれ等債務の存することは認めて争わなかつたが、被告の数度にわたる請求にもかかわらず支払をしなかつたので、被告は同年二月二三日江木社長に対し支払に応じなければ委託物横領を理由に告訴すると厳談したところ、穏便な話にしてくれとのことであつたので、右債権を担保するため本件物件(如上除外したもの等を含む)を提供すべきことを求めたに対しこれを承諾し、よつて被告は同月二六日人夫を連れて会社に赴き居合せた専務取締役遠藤某にも諒解を求め、会社に据え付けてあつた該物件を取り外し、甲第二号証預り証を江木社長に交付して物件を持ち帰つたことを認め得べく、右認定に反し原告は被告が前記物件を強奪した旨主張するが該主張に副う原審証人妹尾秋代、当審証人裕川惣一、江木俊雅の供述部分は当裁判所これを措信しない。他に原告主張事実を認めて前段認定を覆すに足る証拠はない。
以上認定の事実によれば被告は前記物件に対し同年二月二六日質権を取得したものと認めるを相当とする。
しかるにその後間もなく会社側において被告が前記物件を強奪したとして矢掛警察署に告訴したため、被告は恐喝被疑事件の被疑者として取調を受け、該物件は同年三月一四日小田北地区警察署に証拠物件として押収されたが、数日後に被押収者である被告をさしおき同会社に仮に還付されたことは当事者間に争がない。そこで押収並に仮還付の処分により被告が質物である前記物件の占有を喪失したかどうかについて判断する。
司法警察職員のなす押収は犯罪の捜査をするについて必要と認めて行う物の占有を取得する公法上の処分であり、それにより被押収者である質権者は質物である押収品に対する私法上の占有を喪わないものと解するから押収後もそのまま保管されてあれば被告の該物件に対する占有はなお継続しているものと解すべきである。ところがその後右物件は被押収者である被告にではなく、質権設定者である前記会社に仮還付せられたのである。仮還付の処分がなされても押収はその効力を継続しており、これを受けたものは必要あるときは何時にても提出すべき状態において保管する義務を有するのであるけれども、その義務は押収処分をした者に対する公法上のものにすぎず、被押収者のために保管する私法上の義務を負担しているわけではない。従つて仮還付により特段の事情のない限り被告は民法第二〇四条に準じ占有を喪つたものというべく、若しそうでなくして同会社が被告のために占有していたのであれば民法第三四五条、第三五二条により被告の右質権は対抗力を喪うにいたつたものである。
しかるところ刑訴法第二二二条により準用される同法第一二三条によれば司法警察官のなす押収品の仮還付の処分も同条所定の者の請求によつて行われるものであるから特段の事情のない限り前記物件も所有者である会社の請求によつて仮に還付せられたものと認むべく、右事実と上段において認定した如く会社側において被告を告訴した事実及び前顕証人裕川惣一の前記物件は会社の生命になる重要なものであつたので、告訴してから仮還付された後会社に完全に取り付けたとの趣旨の供述部分を綜合すれば、会社は仮還付を受けてこれをその工場に復旧して据えつけ使用していたものであるから、会社は自己のためにする意思を以てこれを所持することにより原始的に占有権を取得したものと認むべく、これを会社より買い受け現実に引渡を了した原告はその所有権を以て被告の質権を否認し完全に対抗し得べきである。
以上の次第であるから前記物件につき原告の所有権確認及び被告の質権不存在確認を求める原告の本訴請求は正当であるが、原判決添附目録記載物件中別紙目録において除外した分及び油槽一個は現存しないからその部分の請求は失当である。
よつて如上の限度において原判決を変更の上民事訴訟法第三八六条第九六条第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 三宅芳郎 林歓一 浅賀栄)